英国のコミュニティダンス視察 06 『Youth Dance England』
インタビュー Linda Jasper, Executive Director
〔視察内容〕 活動内容の説明と劇場見学
■ユースダンスイングランドの活動
若者とダンスをつなげるナショナルダンスエージェンシーとしては、YDEは初めてのダンスエージェンシーである。資金源は教育技能省とアーツカウンシル。3年前に発足し、資金は2011年まで受けることになっている。イングランドには9つの地方の組織があり、ネットワークをつくって、若者にダンスを浸透させていくことと、そのサポートをしている。これまでには、それぞれの地方で、どんなコミュニティダンスの活動をおこなっているのかということを調べ、今後発展していく可能性のある分野を見極めたり、あるいは今後も続けていく部分を見極めたりするなどの、サポートをしている。また、手に入れた情報をすべてナショナルデータベースとして保持しています。各地の団体がそれぞれの形でユースダンスを地域に発展させるプログラムを組んでおり、国レベルでのスキーム企画を立てて、そこにみんなが加わっていく形で、全体でダンスを高めていこうという動きである。
実施事業例1 ユースダンスフェスティバルの開催
ナショナルスキームのひとつにナショナルユースダンスフェスティバルがある。このパフォーマンスは、イングランドの北西部にありますマンチェスター近郊のラウリーという劇場でおこなわれることになっています。われわれがイングランド全体から選んできたすべてのグループが集まりまして、ワークショップやパフォーマンスをおこなっています。このフェスティバルの開催が決まったときに、それぞれの地域でオーディションをおこない、選考をおこないます。
実施事業例2 ユースダンスの映像のTV放映
ナショナルスキームのもうひとつの例といたしまして、昨年チャンネル4という地上波のテレビ局がありまして、若いフィルムディレクターたちにユースダンスについてのフィルムを撮影してほしいとコミッションし、撮った作品を11月にテレビで放映いたしました。
■ユースダンスに携わる指導者のサポート
若い人たちと一緒に仕事をしている人たちに対してのサポートもしなければいけません。そして、基準をあげたり技能をあげたりということもサポートをしていくという上で、会議もおこなっています。4 月にリバプールで数百人の若い人たちを教えているダンスの先生を集めましてダンスに関する問題点やグッドプラクティス、どんな慣行をすすめるべきかを話し 合いました。平たくいって、われわれの役割というのはユースダンス国中で関わっている人たちの絆を深めてみんなの基準を高めていくということです。そして われわれの任務の範囲は、ダンスの種類は問いません。しかし若い人が対象となっています。ダンスのジャンルは問わないといいましたが、大きく見渡してみま すと、やはり一番多いのが、コンテンポラリーダンスと呼ばれるもの、クリエイティブダンス、ストリートダンス、ジャズダンス、南アジアのダンス、アフリカ のダンスがこうしたダンスが中心となっています。
こうしたダンスゾーンというのは若者には魅力のあるジャンルをまだ先生が教授法として確立していないジャンルであると思うんです。たとえば、バレエについては、長い歴史のなかで、確立されています。ですので、バレエに関しては、われわれはサポートする必要がないわけです。
■ユースダンスに関する問題点
1. まだまだダンスにアクセスがない若者たちが多い
われわれが抱えている問題なんですが、まだ若者の中でダンスにアクセスがない人が多いなと感じています。地方のインフラをつかってもっとたくさんの人に対してダンスに対するアクセスを提供していくことがわれれれのもくろみなんですが、でも農村部などでは、まだまだダンス、とくに様々な形でダンスを提供するこ ととができていないと感じています。
2.ユースダンス=「学校の外でのダンス」というイメージ
もうひとつ、ユースダンスというのは言葉なんですけれども、ユースダンスというイメージが、「学校の外でのダンス」というイメージなんですね。ただ一方で、今政府の方針としては、UK について全体にいえることなんですが、学校に対してどんどん資金を提供して、教育だけでなく社会部分でも学校の役割をもう少し大きくしていこうとしてい る。ですから、たとえば子どもたちをもう少し長い間学校にとどめることによって若い両親や共働きの両親が、もっと長い間働けるようにして、たとえば、託児 施設などをあまり心配せず、それによって家族の経済状態もよくなって、社会的な地位も高くなるということを目指しているんですが、その間に学校の修了科目 だけではなくていろんなことを子どもたちに学ばせるチャンスを与えようというスキームを現在政府が進めているところです。
最 近われわれが依頼を受けることがあるのですが、学校との協力体制をもっと深めてほしいということです。学校の先生とダンスの先生をうまくつなげることに よって、学校の外のダンスの先生が学校のなかにもっと専門化されたダンスを持ち込めるようしてほしいというふうに依頼されています。子どもたちにダンスを 教えることによって、政府は1 週間に少なくとも4時間くら いは子どもに運動させてほしいという方針を打ちたてています。実はイギリスでは肥満が大変大きな問題となっておりまして、子どもたちにもっと運動させなけ ればいけないというんで、その一環としてもダンスが取り入れられようとしています。PSAというパブリックサービスアグリーメントというのですが公共の サービスにおける合意ということで、子どもたちに1週間に4時間の運動が義務付けられています。
■これまでの成果が今やっと花開きつつある
私は実はダンスに携わって30 うん年になるんですけれども、ここにきて初めて感じるのは、これまでわれわれがダンスの教育とかコミュニティにつなげていこうという努力をしてきたんです けれども、それが今花開きつつあるなと感じています。政府も、あきらかにダンスというものが、政府がかがげている目標を達成するための道具になると認識し つつあると感じます。ということなのですが、イングランドでは、わたしたちは、今とてもダンスについてはエキサイティングな時期をむかえていると思います。
■イギリスの学校におけるダンスについて
国のカリキュラムというのがイングランドでもありますが、ダンスというのは体育の一環として11 歳までは義務になっています。11歳以降ですが、そのあとは5つの選択しが与えられまして、そのなかの1つがダンスになっています。学校はダンスを教育の 一環として提供することもできます。必ずしも必要ではないですが。ただ16歳のときJCSE、18歳のときAレベルという国レベルの試験があるのですが、 その科目としてダンスも取ることができます。Aレベル、JCSEの試験において、ダンスという分野は急成長をとげておりどんどん人気が高まっています。ただ、中学の分野で、体育の先生で高いレベルでダンスを教えられる先生、人材が限られているという問題があります。ということで、われわれYDEの存在は政府にとって大変重要で、学校と専門のプロとコミュニティダンサーとのかけはし的存在になっています。
■イギリスの学校におけるダンスについて
国のカリキュラムというのがイングランドでもありますが、ダンスというのは体育の一環として11 歳までは義務になっています。11歳以降ですが、そのあとは5つの選択しが与えられまして、そのなかの1つがダンスになっています。学校はダンスを教育の 一環として提供することもできます。必ずしも必要ではないですが。ただ16歳のときJCSE、18歳のときAレベルという国レベルの試験があるのですが、 その科目としてダンスも取ることができます。Aレベル、JCSEの試験において、ダンスという分野は急成長をとげておりどんどん人気が高まっています。ただ、中学の分野で、体育の先生で高いレベルでダンスを教えられる先生、人材が限られているという問題があります。ということで、われわれYDEの存在は政府にとって大変重要で、学校と専門のプロとコミュニティダンサーとのかけはし的存在になっています。
■ダンサーと学校(先生)とのかけはし
ダンスを習得するというのは、世界中どこでも共通だと思 いますが、ダンスというのは、ダンスは誰かに教えてもらう、そして伝えていくという形で伝承されていくというものだと思います。イングランドにおけるプロ のアーティストたちの多くは、教えるということもしています。それは当然経済的な理由でもあって、ひとつの収入源になるから、そして自分の活動を続けてい くための経済的な理由として先生をしているのですが、特にわれわれが協力したいような先生たちというのは、若い人たちとか、アマチュアのダンサーたちと一 緒に仕事をすることによって、自分のクリエイティビティにもとても大きな影響力をもっているというふうに感じているみたいなんです。自分のクリエイティビ ティを高めるためにも、アマチュアの人たちと一緒に仕事をすることを大切に思っている人たちがたくさんいます。
特に非常に貴重な存在だと思うプロのアーティストは一体どういう人たちかといいますと、アイデアやアーティスティックプロセスについて、先生としてああしな さいこうしなさいと指示をするような人たちではなく、時間を共有することによって、若い人たちやアマチュアの人たちと協力しながら一緒にみんなで学んでい こうとする態度をもっているプロの人たちです。つまり民主的なアートとでもいうのでしょうか、みんなアーティストだという考えに基づいているんですね。ですから、その題材ですとか、作品すべてを、誰がオーナーなのかというと、それはプロジェクトを進めているアーティストではなく、そこに参加しているすべての人たちみんなで共有するということが望ましいのです。なかなかそういう人材を見つけるのは難しいとはいいながら、最近コミュニティダンスの運動が高まるにつれて、そういった人材がふえていると思います。こうやって民主的にアートを共有するという形ですすめていくアーティストの数は増えているというのが現状です。
■コミュニティダンスが今に至る背景
ここで背景をお話いたしますと、私は草分け的な存在なのですが、ロンドンのバークシャー州という全体でダンスのプロジェクトをしていました。私 は最初からつまりはコミュニティダンスの成長というものを見守ってきたわけなのですが、今となっては、コミュニティダンスというのは主流化されていると思 うんですね。ダンスのメインストリームといっても過言ではないと思います。昔は、メインストリームとコミュニティダンスというのは別個にになっていたので すが、今では壁は取り払われているというふうに感じます。コミュニティダンスだけで活動しているアーティストもいますけれども、他の領域のダンサーがコ ミュニティダンスのなかにかなりはいってきているというのが現状です。
も ちろん、芸術のための芸術家と、コミュニティのなかでも芸術をしていきたい、コミュニティの中でも芸術をすすめているアーティストでの間の緊張はなくはな いのですが、それでも緊張は今だんだん解けてきていると感じます。いわゆる純粋なアーティストと、アートを道具に使っているアーティストの壁というのもだ んだん薄れてきていると思います。
■新しいアートフォームを創出するダンス
ダンスというのは、実は公の資金を受けるアートフォームとしては最後のものだったんです。たとえば、絵画などのほかのアートフォームが先に公からお金をとっ てしまって、ダンスというのは、ハイアラーキー、つまりピラミッドでは一番したの存在だったのですが、ですから、たとえば、アーツカウンシルは、ほかのと ころが優先されて、ダンスは一番最後というところがあったわけです。もちろん非常にバレエ団とかは、異例の存在ですけれども。
そういったことでダンスは他のアートフォームに比べてお荷物が少なかったということがいえるかもしれません。そういう意味で柔軟性を持つことができた。新しいアイデアをどんどん取り入れることができたと思います。アーツカウンシルからお金をたくさんもらっていると、クライアントからの要望が非常に強くなって、あれをやれとかお荷物が増えてきてしまうのですが、ダンスは お金ももらっていないんだから、勝手にやってもいいでしょということで、そういった意味で新しいことがたくさんできたと思います。新しいものを取り入れて きていることに対して、今になって他のアートフォームがまねをしてきているなと思っています。
■いまアートの社会的影響が高まっている
最近はどこの劇団でも劇場でも規模に関わらず教育プログラムを持っています。子どもたちにアートを施そうという動きがみられますが、アートの社会的影響力が いまどんどん注目されてきて、その影響力が高まっていると思います。労働党政権はアートが社会でとても重要なんだと強調する傾向があって、学校教育を通じ て、今まではアートの観衆でなかった人たちもどんどん取り込んでいこうというそういった運動が生まれています。
いろいろな劇場がおこなっている教育プログラムというのは、当然、新しい人たちを取り込もうという意図もあると思います。そして芸術的体験をみんなにしても らおうということがあると思うのですが、それと同時に劇場がかけている作品とオーディエンスの関係や、作品をを理解してもらううえでワークショップを開い ているわけですよね。こういったふたつの全く違う方法によって、新しい観客を芸術に取り込んでいこうというそういった動きがあるようです。
■質問
Q. 今日本でも、若い人が学校にいかなかったり、子どもが人を殺すなど悲惨なことがあります。現在、まだ始まったばかりだけれども、私たちは学校にアーティト と行けるようにアプローチをしているのですが、イギリスでも子どもたちの問題があったことによって運動が広まってきたということがあるのでしょうか。
A. そういう傾向はあります。イングランドにはピープルリファーラルユニットという組織がありまして、学校で手のつけられない子どもたちや、学校に行きたくな いなど、学校から阻害されてしまった子どもを別の教育機関に行って、そこで更正させるというようなものです。バンキングファンデーションというものがあり まして、リファーラルユニットに対する援助、アートの振興というもの、アートの分野での資金の提供をしてきました。私はアートの中でもダンスを特にピープ ルリファーラルユニットに紹介するということをおこなってきました。学校から阻害された子どもたちをもういちど教育の場に取り戻していこうという動きがあ ります。
ダンスユナイテッドというものがありまして、振付師であるバーンスタインドバリュリュースさんという方がやっているカンパニーです。学校の落ちこぼれだけで はなく、刑務所に行くのにはまだ早すぎるような若い犯罪者、少年更正施設ようなところでダンスを取り入れるということもしています。ダンスユナイテッド は、刑務所や少年院でダンスを教えて、効果が絶大だったということで、大変成功をおさめたダンスカンパニーです。映画もできています。ファンデーションフォーコミュニティダンスから発刊されているアニメイティッドという雑誌にも取り上げられていますのでぜひご覧ください。
イギリスの北部のチュシャに女性刑務所がありまして、そこでもフルタイムのダンサーの先生が、女性の服役囚に対してダンスを教えるということをしています。
さらに北部のヨークシャー州のブラッドフォードというところにダンスアカデミーが創設されまして、若い犯罪者に対して、ダンスを踊るのを何時間か義務付けていまして、懲役の一環としてダンスが取り入れられています。更正施設においてダンスがおこなわれるというのは、どんどん注目をされてきています。
ダンスユナイテッドというところがリサーチもおこなっていまして、ダ ンスの更正施設に取り入れるということで、服役囚、若い犯罪者の子達のみならず、刑務所そのものの文化も変わってきているというリサーチ結果もでていま す。刑務所を取り仕切っている偉い人たちが服役囚とどう接するか、や刑務所自体の運営にまでダンスの影響が及んでいます。
Q.ユースダンスイングランドに依頼が増えてきているということだったが、学校から依頼されるのか、それとも政府から依頼されるのか?
A.ダンスがナショナルカリキュラムにはいったのは随分前のことです。私たちの役割として、ダンスを教える基準、先生の水準を高めるという役割がひとつあるわけです。
誰から頼まれているかというのは、政府です。マスコミ省、教育技能省からです。なぜそういった省庁から頼まれるかといいますと、学校から政府に対して、「アートを教えたいのだがなかなか人材がいない」というような問題を政府に持ちかけて、学校が抱えている問題を政府が汲み取って、私たちのところに橋渡し をお願いしますということになりました。
Q.芸術のための芸術家と、コミュニティ活動をしているアーティストの緊張があるということをおっしゃいましたが、コミュニティで活動している人が芸術家になりたいと思っているのか、また芸術のための芸術家がコミュニティの仕事をしたいと思っているのか?
A. お答えとしては、個人によると思います。例としてはランダムダンスのマクレガーさんはもともと小さなコミュニティダンスの出身で、カンパニーを立ち上げ て、今非常に人気のあるカンパニーへと発展しました。基本的にはハイアートであり、そういったこともやっているのですが、それと同時にコミュニティダンスをしている。両立させている方で、ボリショイやロイヤルバレエで振り付けもしながら、コミュニティでも同じように仕事をしています。ファウンデーション フォーコミュニティダンスの役員でもあります。非常に面白い例だと思います。なかには、「私は全くコミュニティダンスなんて興味はありません」という人もいます。
それでも今でも数としてコミュニティも仕事のなかにいれていきたいという人が増えているということがいえるのは事実だと思います。昔はとても2極的で、プロのアーティストとコミュニティのアーティストが全く分かれていたのですが、今は両立している人たちがどんどん増えてきています。昔はお金がもらえるからコミュニティで資金を得て、自分の本当のやりたいアートの資金源にしていた人がたくさんいたが、今は両方を両立させたいという人が増えている。
確 かに、究極的に、芸術家というのは妥協をしたくない、自分が満足する作品をつくりたいというのがミッションなわけですから、なかには、自分のカンパニーを 持たなくては満足を得られないという人もいますし、なかには、コミュニティに接していくことが喜びなんだという感じている人もいてそれぞれです。ただ、コ ミュニティで仕事をしていくことが自分のプラスになると感じている人が増えている。ベルギーの○も多様な活動をしている。
Q.どのように地域のオフィスとネットワークを組んでいるのか。
A. 契約書がわれわれの中で存在します。それぞれの地域の協力先に対して、この部分を頑張っていきましょうという10の決め事があって、10点について、それぞれのリージョナルオフィスが3ヵ月ごとにわれわれにレポートを出します。どれだけ頑張っているかという進捗状況をみて、お金を出すか出さないかを決めます。また、会議をして、どんな問題があるのか、ということについて話し合って、ナショナルイベントを一緒に計画するということもしています。
[視察日]2007年6月24日~30日
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2014年7月8日