英国のコミュニティダンス視察 05 『LABAN』
インタビュー
Antony Bowne/Director
Veronica Jobbins/Head of Education and Community Development
Alysoun Tomkins/Director of Dance
〔視察内容〕各担当者から活動内容とプログラムの説明を受け、施設内並びにワークショップを見学
■ ラバンの特徴
①建築
ラバンの特徴の一つに、ヘルツォーク&ド・ムーロン設計による、ラバンの校舎そのものがあげられる。北京五輪のスタジアムや、テート・モダンの設計で注目を集めるヘルツォーク&ド・ムーロンは、ラバンセンターの設計で2003年スターリング賞を受賞している。
13のスタジオ、劇場(300席)、スタジオシアター(100席)、野外劇場(400席)の他、図書館、音楽スタジオ、カフェ、ピラティススタジオ、健 康管理室などを備えている。ストリートをイメージしたという広く開放的な廊下や、館内に描かれた壁画など、建物全体のカラーコーディネートも大胆で特徴 的。図書館はコンテンポラリーダンスに関する資料保有がヨーロッパ最大とも言われ、創設者であるルドルフ・ラバンの映像をはじめ、ビジュアルコレクション が豊富に取り揃えられている。一部のスタジオには鏡やバーがなく、普段自分の外見ばかりにとらわれがちなダンサーに、もっと自分の内面と向き合えるように との配慮もあるとか。館内の3つの劇場は主に学生の発表の場として機能しているが、海外カンパニーの招聘公演なども行っている。
②環境
ラバンの建つグリニッジは、金融街であるロンドンシティーや、グリニッジ海軍学校が程近く、利便は悪くないものの、荒廃した土地柄で治安などがあまりよくな い。こうした土地にあえて設置されたラバンは、ダンスやアートが地域復興に役立つという理念に基づいており、政府予算獲得の重要な背景ともなっている。
③国際性
国際性を重視するラバンでは、約400名の学生のうち約50%を海外からの入学者が占める。ラバン所属のカンパニー『トランジションズ・ダンスカンパニー』の海外ツアー、施設内の劇場における海外カンパニーの招聘公演や、外国機関とのコラボレーションなど、国際プロジェクトにも力を入れている。
■ ラバンの使命
1年コース、3年コース、マスタークラスなど多様なコースを設けてダンサーを育てるばかりでなく、それらのコースを修了したダンサーたちがラバンを通じて得たものを将来なんらかの形で社会に還元できることを目的としている。ザ・ガーディアン誌調査による世界の優れた学校ランキングで、ラバンは演劇・ダンス部門の1位となった。近年、トリニティー・カレッジ・オブ・ミュージック(ロンドン)と合併したが、同校も同誌の音楽部門で第1位を獲得している。両校の合併により、今後更に音楽とダンスとのコラボレーションについて積極的な取り組みが期待されている。
■ スタッフ構成
40名程度の正職員と、200名にも及ぶ臨時職員、プロジェクトスタッフを抱える。ラバンの卒業生や、ラバン所属のダンスカンパニー“トランジションズ・ダンスカンパニー”出身者のほか、世界中から用途に応じて優秀な人材を集めている。
■ 資金面について
政府予算のほか、プロジェクト毎に資金を集めるケースが多く、財源は多岐に渡っている。
す でに設けられている男女混合の青少年向けのダンスクラスに加え、男子児童のみのダンスクラス。男子児童がダンスと触れる機会を増やし、ダンスを習う男子の 数を延ばすことを目的に設置された。日本同様にイギリスでも男性のダンス人口はまだまだ低く、こうした取り組みが将来の男性ダンサーを増やすきっかけとな ることが期待される。学校や、男子学生が集まる場所で募集チラシを配るなど、地道に参加を呼びかけている。
■ コミュニティダンス関連のプロジェクト
担当者:ベロニカ・ジョビンス(プロフェッショナル&コミュニティー開発部長)
1)“Dance Captures”プロジェクト
“ク リエイティブパートナーシップ”(学校におけるクリエイティビティー奨励のための資金援助)から助成を受け、イースト・ロンドン・ダンスとのコラボレー ションとして実施。子どもたちに2012年のロンドン・オリンピックへの理解を促し、地元として盛りあがるべく立ち上げられた3ヶ月間のプロジェクト。 ラバン近郊の小学校、イースト・ロンドン・ダンスのあるストラトフォード所在の4つの小学校の8歳~10歳の子どもをミックスして更に4つにグループ分けし、オリンピックをテーマにしたダンス作品をそれぞれ創作する。
本プロジェクトでは、ワークショップ実施に先立って、各学校の先生とプラン立てを綿密に行い、先生が積極的にプロジェクトに係わることを奨励している。ワークショップでは、ダンス作品創作のみならず、子どもたちにダンスカンパニーの変遷などの講義も行っている。
2)ボーイズ・プロジェクト“Pick up the Pace”
すでに設けられて いる男女混合の青少年向けのダンスクラスに加え、男子児童のみのダンスクラス。男子児童がダンスと触れる機会を増やし、ダンスを習う男子の数を延ばすこと を目的に設置された。日本同様にイギリスでも男性のダンス人口はまだまだ低く、こうした取り組みが将来の男性ダンサーを増やすきっかけとなることが期待さ れる。学校や、男子学生が集まる場所で募集チラシを配るなど、地道に参加を呼びかけている。
平均参加人数:8歳~11歳(20人)、12歳~15歳(20人)、15歳以上(10人)
参加費用:1クラス 1ポンド(青少年向けワークショップは全て同料金)
※学校とのとりくみに関して※
イングランドの小学校では、6週間のダンスの授業が体育の一部として義務付けられているため、大半の先生はこうした取り組みに積極的だが、中には「ダンスが何の役に立つのかわからない」といった否定的な先生もいるため丁寧な調整が心がけられる。また、学校側からの要請に応じて、授業でダンスを教える先生のためのダンスワークショップを実施している。より積極的な学校には、ラバンからダンスの先生を派遣、常駐して授業を行うケースもある。
◆トランジションズ・ダンスカンパニー(Transitions Dance Company)
ラバン の所属のダンスカンパニー。ラバンのコースを卒業したダンサーを含む、オーディションによって選抜されたダンサーによる、プロフェッショナルカンパニー。 高い技術を誇り、世界の著名な振付家による独自のレパートリーを多数持つことから、海外ツアーをする程人気が高い。カンパニー設立当初より教育と実践(カ ンパニーダンサーとしての活動)が直結した、コンテンポラリーダンスでの画期的なスタイルとして注目を集めている。
現在までに3人の日本人ダンサーが参加している。テクニックに加え、ダンス教育法や、具体的な指導プログラムを学習することから、トランジションズを経てラバンの教師になる者もいる。
シンガポールで2012年のオリンピック開催地選考会議が行われた際には、候補地のプレゼンテーションの一つとしてパフォーマンスを披露、ロンドン・オリンピック開催決定に一役買った。
【見学内容】
*館内ツアー:スタジオ、劇場、図書館、健康管理室など、館内をくまなく視察
*“Dance Captures”プロジェクトの活動風景を4班に分かれて見学。その後、4組の合同発表会をスタジオシアターで鑑賞。オリンピックをテーマに子供たちが 作ったダンスをそれぞれ披露。どのグループの発表も、4つの学校の生徒がシャッフルされたミックスグループとは思えない程、息もぴったりに仲良く取り組ん でいる姿に、日本人一堂関心。
*“Pick up the Pace”(ボーイズ・プロジェクト)見学。このクラスでは、イギリスの少年にもっとも身近とも言える「ハリー・ポッター」をテーマにしたという、空飛ぶ 魔法使いのイメージで作品を創作中。指導する先生の多くはラバンの卒業生が勤めるが、少年たちにテーマを与え、それを子どもたち自身が膨らましていく形式 で作業が進められていく。目立ちたがりの子や、あきらかにふざけているとしか思えない子(後で先生に起こられていた)もいたが、「ダンスは楽しいです か?」という質問には、「ダンスは大好き!ボーイズ・クラスに参加できてとても楽しい」と、どの少年も笑顔で答えてくれた。女子との混合クラスと併願して いる者もおり、青少年がダンスへの理解を深めるためのプロジェクトとして非常に成功している例と感じられた。
[視察日]2007年6月24日~30日
JCDN
最新の記事 JCDN (全て見る)
2014年7月8日